J−POP 7つの謎

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 ここでは、いまやJPOPに無くてはならない、いろいろな表現、構成、サウンド等が、いつごろから現れたのかを見てみる。

1、サビの繰り返し

 

 今の歌のほとんどは最後にこれでもかというくらい、サビを繰り返すケースが一般的である。少なくとも2回、多いと4回、歌によっては繰り返し繰り返ししてフェードアウトなんていうものもある。そして追い討ちをかけるように、最後にその内の最後の2小節ないしは4小節を今一度繰り返しをして終わるパターンが多い。この一番最後の短い2小節ないしは4小節の繰り返しは、サビなのだが、少しおとなしめのアレンジにするのが最近の流行である。

それでは、なぜサビを繰り返すのか。やはりサビはその歌の顔でこれを繰り返すことにより、強い印象を与え、覚えてもらおうとするためである。

 このようなサビの繰り返しはいつ頃から始まったのだろうか?

それには大きな条件があった。これは第1章でも述べた、75年から76年にかけて一気に主流となった、歌の構成の中で一番最後にサビが来るというABS形式の構成でなければならない、と言うことである。あたりまえと言えばあたりまえだが、最後にサビが来なければサビを繰り返すこともできない。そこで歌が終わりではないのだから。

つまり、その前の70年代初めに主流だったASA形式では、サビを繰り返すことはできなかった。なぜなら、一番歌で盛り上がるサビが真中にあって、その後にまた落ち着いたAメロに戻って、静かに歌が終わっていたからである。

事例研究1 また逢う日まで 尾崎紀世彦 筒美京平作曲 1971年3月5日発売
 この歌は元々は1970年2月に発売になったズー・ニー・ヴーの「ひとりの悲しみ」をリメイクしたものである。形式は現在では最も多く使われているABS形式でサビが最後に来る。サビに向けてAメロBメロどんどん盛り上がって、2番で最後にサビを2回繰り返して終わるのも現在では典型的になっている手法であるが、当時は珍しかった。今でもカラオケの定番的な曲になっているのも、この手法の絶大さが良くわかるというものである。

事例研究2 出発の歌 上条恒彦と六文銭 小室等作曲 1971年12月20日発売
 この歌もまた逢う日までと同じように最後にとにかく盛り上がって終わる。それもサビを繰り返すのだが、特徴的なのは、一旦終わるような形になるのだが、そこからまた復活してさらに繰り返すという手法である。

事例研究3 ひなげしの花 アグネスチャン 森田公一作曲 1972年11月25日発売
  この曲は最後にサビを繰り返したまま、フェードアウトしている。これもこのころはやり出した方法である。(今ではサビを繰り返し歌いながらフェードアウトする曲はほとんど無い。仮にフェードアウトするとしても、そのときは歌は途中まで数回のだけ繰り返して歌い、その後は演奏だけ繰り返すケースが多い。)

 

 

事例研究4 心の旅 チューリップ 財津和夫作曲 1973年4月20日発売
  この曲も最後にサビを繰り返したまま、フェードアウトしている。

 

2、転調その1:短ニ度(半音)上がって盛り上がり

 

 小室哲哉の登場以来、何の脈絡もない転調もあたりまえになってしまっている。ひとつはコンピュータを使った音楽製作があたりまえになり、転調がコンピュータ上でマウスを何回かクリックするだけで簡単にできるようになったのが大きい。、しかし、そういった時代の前は転調は特別な物だった。そうした転調の中でも歌の盛り上げに最大の効果を発揮する手法の一つとして登場したのがこの短二度上がるという転調である。

 

 この手法には二つある。一つ目は最後のサビで短二度上がるもので、二つ目は2番になるところで短二度上がるなど1番全体が上がるものである。

 

 それではまず最後のサビなどで短二度上がるものを見てみることにする。

 

事例研究1 君をのせて 沢田研二 宮川泰作曲 1971年11月1日発売

  2番が終わったところのあとの伴奏から短二度上がっている。そのあとスキャットでaメロを歌い、サビを繰り返して終わる。ということでむしろ二つ目の1番全体が短二度上がるパターンに近いかもしれない。

 

事例研究2 ともだち 南沙織 筒美京平作曲 1972年2月1日発売

  この曲は当時の典型的なasa型であるが、2番の最後のaメロの部分が短二度上がる。最後のaメロのところなので、盛り上がり感という意味では少ない。どちらかというと、少し雰囲気が変えた感じを出しており、歌詞もそれに合ったようなものになっている。

 

事例研究3 君が美しすぎて 野口五郎 馬飼野俊一作曲 1972年7月1日発売

  この曲はサビで終わる曲で、2番の終わったあと、短二度上がった1小節の短い間奏のあとサビが来る。サビが最後に来て、盛り上がるように歌い上げる形での短二度上がる現在に続くパターンの走りである。

 

事例研究4 男の子女の子 郷ひろみ 筒美京平作曲 1972年8月1日発売

  この曲も当時の典型的なasa型であるが、こちらも2番の最後のaメロの部分が短二度上がる。こちらもaメロなので、盛り上がるというよりも少し雰囲気が変わる感じで終わるという効果が強い。

 

事例研究5 あなた 小坂明子 小坂明子作曲 1973年12月21日発売

  この曲も最後がサビで終わる。2番のサビで盛り上がってきたところで、さらに歌い上げ的な形での最後のサビが短二度上がり、極めつけに盛り上がって終わるパターンとなっている。

 

このもう一つのパターンとして、2番全体とかを短二度上げるような曲がある。この場合はサビで盛り上がるパターンよりは盛り上がり感が少ない。

こちらのパターンは最近はほとんど絶滅している。70年代初期に若干の例があるのみである。

 

事例研究1 森を駈ける恋人たち 麻丘めぐみ 筒美京平作曲 1973年4月30日発売
  この曲は1番と2番の間の間奏の途中から短二度上がり、そのまま2番に突入する。元々のスピーディーな曲調に加えて、rpmが上がったように、よりスピード感を上げるように感じさせる。

 

事例研究2 誘われてフラメンコ 郷ひろみ 筒美京平作曲 1975年7月21日発売
  この曲は1番のキーがF#mから始まり、2番でGmになり、Bメロサビと繰り返すその後は同じGmで続くが、さらにそのあと短二度上がり、キーG#mでサビを繰り返し、フェードアウトで終わる。

 

事例研究3 二重唱 岩崎宏美 筒美京平作曲 1975年4月25日発売
  この曲では2番まで終わったあと、最後にAメロで終わるのだが、ここの前の間奏から短二度上がる。ここではAメロに行くので、まるで3番が始まるような感覚がするが、そのままなんとなく余韻を残すような感じで終わる。

 

事例研究4 ファンタジー 岩崎宏美 筒美京平作曲 1976年1月25日発売
  この曲は2番で短二度上がり、2番の後でさらに短二度上がったあと間奏があってサビを繰り返して、フェードアウトする。彼女の音域が広いからこそできる手法である。

 

事例研究5 悲しき友情 西城秀樹 筒美京平作曲 1980年1月5日発売
 今までの例とは少し時代が下った時期だが、この曲は1番のキーがF#mから始まり、2番のキーはGm、3番とその後のCodaCメロのキーはG#m、4番ではキーがAmと、途中で何と3回も短二度ずつ上がる転調を繰り返す。

 

3、転調その2:短3度upとdown

 転調の中で代表的なものに短3度で上がったり、下がったりするものがある。

 

 歴史的に見ると、まず筆者がAAm転調と呼んでいるものが最初に出てきている。これはAmからAに変わる転調により短調から長調に移行するのが特徴である。 戦後のヒット曲第一号と呼ばれる並木路子のりんごの唄のイントロ、間奏と歌の間の転調としても出てくるように、元々日本人になじみのある転調で、昔からある。

 

事例研究1 三百六十五歩のマーチ 水前寺清子 米山正夫作曲 1968年11月10日発売
  この曲のサビはどこかは難しいが、2つ目に出てくるメロディーをサビとして、その途中で元々の長調から四七抜きの短調に変わる。演歌では無いが、転調が西洋的メロディーと日本的なメロディーの切り替わり目になっている。その後また西洋的なメロディーで元の長調に戻る。

 

事例研究2 記念樹 森昌子 森田公一作曲 1973年10月30日発売
  この曲最初は短調から入りサビが長調となり、当時の主流であったASA形式に近い形式で、最後にまた長調となるという形をとっている。

 

事例研究3 魅せられた夜 沢田研二 Jean Renard作曲 1973年11月21日発売
  最初Aメロは短調から入り続くサビで長調になり、サビの最後おわりのところで(Aメロに戻る訳ではないが)また短調に戻る。

 

事例研究4 若草の季節 森昌子 森田公一作曲 1974年2月10日発売
  この曲森昌子の上記事例研究2の記念樹の次の曲になるのだが、逆に長調のAメロ、Bメロから入り、サビが短調となりその最後はまた長調に戻り、その後のメロディーにつながる。

 

事例研究5 君よ抱かれて熱くなれ 西城秀樹 三木たかし作曲 1976年2月25日発売
  この曲も基本的には短調が基調である。この曲は構成が多少変わっており、いわゆる大サビ的なメロディーがあり、ここが長調となっている。このため1番の中での変化というよりも、曲全体の構成の中で変化するような形である。最後はこの大サビの最後の締めとなるような2小節のメロディーがあり、長調で終わる。

 

事例研究6 愛情 小柳ゆき 原一博作曲 2000年4月12日発売
 この曲は今までの曲から見るとだいぶ最近の曲になるが、このタイプの中では少し変わった形になっているので、ここでとりあげる。

 いままでに紹介した曲では、基本的にAm→AときてそこでAに転調する形で、Aになったところからもう転調が完了していた。しかしこの曲は異なっていた。まずこの頃の曲としては良く使われていた、曲の最後にAm→Asus4→Aという形を持って来た。上記の例で行くとここのAでは既に転調しているように感じるが、この良く使われる形がために、このまま行くだろうという感じを抱いたところで、次の間奏のところで次にF#mが来る。これは短3度低くなっていることには違いないのだが、今までの例とは異なる新鮮な転調の感触を与える。どちらかというと全く脈略が無い転調をしたかと一瞬思ってしまう。これはAm→Aと転調したあとはAという長調を特に強調したようなメロディーが通常来るのに対し、この曲は逆にF#mという短調になるためでもある。

 

 

JPOPのコードのところにも書いたが、曲の最後で本来Amで終わるところをAで終わらせ、この形の転調を一瞬におわせるような手法が、特に1990年代後半から2000年代前半に流行った。ただし、これはそこの1小節なり2小節限定であり、その後しばらく転調が続く訳では無いが、効果としてはこの転調に似たものがある。

 

 上記のAAm型転調に対して、同じ短3度の転調で、導入の仕方が変わった転調が出てきたのが70年代後半である。この中でもCからG#経由で入るケースといきなり転調するケースとがある。この転調が最も使われたのは80年代後半である。

 

事例研究1 若き獅子たち 西城秀樹 三木たかし作曲 1976年9月5日発売
  この曲のサビの4小節目からいきなり短3度上がる転調をする。転調後その前のメロディーをちょうど短3度上がった形で歌う。そのあと、短3度上がったキーでのIVmaj7→IIIsus4(元のキーのVsus4に相当)から元のキーに戻る。この戻り方も今では定番的なものである。

 

事例研究2 My Revolution 渡辺美里 小室哲哉作曲 1986年9月5日発売
  この曲はサビの始まりのところで短3度下がる転調する。サビが終わったところで間奏に移るところで元に戻る。サビに入るところは、よくある戻り方のパターンに近いIsus4→VIsus4でVIsus4の元になっているVIが転調先のキーになっている。戻り方は小室哲哉得意のあまり脈略の無い突然の転調的な戻り方である。

 

事例研究3 C-girl 浅香唯 NOBODY作曲 1988年4月20日発売
  この曲はBメロから短3度上がる転調する。このとき元のキーのV#が短3度上がったキーのIVに相当することを利用する、80年代後半に流行した典型的な方法を使って転調する。この方法は今でも使われることがある、転調の中でも印象的な方法である。Bメロの最後サビの前で短3度上がったキーでのIII(元のキーのVに相当)から短3度下がった元のキーに戻る。この戻り方は元のキーで言うとVIIの音を介しており、こちらも典型的な戻り方である。

 

事例研究4 ロコモーションドリーム 田村英里子 筒美京平曲 1989年3月15日発売
  田村英里子のデビュー曲であるこの曲では、非常に短い間のこの転調を使っている、いわば転調の最短記録的なメロディーがAメロの後半に出てくる。その長さはわずか2小節しかない。この間で転調して、また元の調に戻って来る。まさにその間だけの束の間の夢を見ているような感じをさせる、使い方である。構成はこれまた典型的な元々のキーのV#が短3度上がったキーのIVに相当することから入り、短3度上がったキーで言うとIV→I→VIIm→III この最後の2つが元のキーで言うとIIm→Vに相当することで元に戻している。そもそもVIImキーが頻繁に使われるようになったのは、80年代に入ってからであり、70年代にはこのような戻り方もありえなかった。

 

事例研究5 あのコによろしく ribbon 谷本 新作曲 1990年7月25日発売
  この曲はCocaCメロのところでから短3度上がる転調をする。この曲でも元々のキーだとV#が短3度上がったキーのIVに相当することを利用して転調している。CodaCメロは、前に書いたIV→V→IIIm→VImと3大コード進行 その2を使ったあとVIImと進行し、これが元のキーでいうとIImに相当して戻るという上記のロコモーションドリームと同じ使いかたである。さらにこのあと短3度上がったキーで言うとVIIm→III、元のキーで言うとIIm→Vと進むのもロコモーションドリームと同じであるが、その後短二度上がって最後のサビにつながるという、なじみのあるコード進行の中でも、もう一ひねりきかせた、言わばおいしいところを凝縮したような形になって、インパクトをつけている。

 

4、転送その3 無手渇転調

 

 先にも書いたように、1990年代中盤以降は、何の脈略も無い転調も、楽曲のデジタル化と共にあたりまえになった。B’zやaccessや小室哲哉の作品に頻繁に現れ、聞く側もこれに慣らされてしまった。

 しかしながらそれまでの時代では、このような転調は極めて少なかった。というよりも皆無に近い。

 まずここでは、1970年代の曲の中で、比較的脈略の無い転調の曲を解説する。ことに1976年末から1977年前半にかけて、このような形の曲が多く、また歌のところだけでなく間奏などで脈略の無い転調を多用する曲が多かった。

 

事例研究1 哀愁のシンフォニー キャンディーズ 三木たかし作曲 1976年11月21日発売
  この曲Bメロのみ転調し、サビでまた元に戻る。元々のキーがCmでBメロはキーがG#になるのだからまるで脈略が無いように思える。ちょうどBメロのところだけ4度上がることになるのだが、わずかにBメロからサビに戻るところで、G#→Gというコード進行がキーCmのドミナントVに相当していることで、それがつながっている。

 

事例研究2 私がブルーにそまるとき 林寛子 大野克夫作曲 1977年1月25日発売
  この曲Aメロ、Bメロとごくごく普通に進みますが、サビに入るにあたり全く脈絡無く転調をする。単なるキー合わせにしては唐突だし、やはりこの頃にはやった無手渇の転調を意識してわざとこのようなアレンジにしているとしか思えない作りである。

 

事例研究3 恋愛遊戯 太田裕美 筒美京平作曲 1977年5月31日発売
  この曲では、Bメロの中間で突然転調する。しかし、そのあとすぐまた元に戻る。もう一つ特徴的なのは、曲の最後で、1番と2番では通常の終止形で終わらず変なコードで終わっている。2番の繰り返し部では少しメロディーを変えて通常の終止形(キーに対してルートの音で終わる)になっている。

 

事例研究4 シャドーボクサー 原田真二 原田真二作曲 1976年12月20日発売
  この曲は複雑な構成になっているが、とりあえず2番まではキーがDmで普通に進行している。そのあとに、CodaCメロ風にメロディーが入るがこれがキーがCのようなメロディーになっており、ここからまたDmに戻る。これもかなり唐突な感じだが、このあと3番が完全に短3度上がって歌う。キー的には非常に高音で厳しい感じで歌うが、この短3度上がるところもメロディアスに接続されるのでなく、唐突に上がる。

 

このような流行はしかし77年頃に限定されたものであった。

この後は最初に書いたような、現在に連なる本当の意味での無手渇な転調が取り入れ始められた。これは楽器のデジタル化と多いに関係があると思われる。MIDI等で楽曲を作る打ち込み作業においては、転調は単にここからここまでと指定して、そこだけ音階を任意の度数分、上げ下げすることが容易にできる。本当の意味での無手渇、すなわちここで楽曲に変化がほしいと思ったところで、あえて関係の無い調に転調をさせることによって変化を与えることが可能である。

 この無手渇転調のもう一つの特徴はそれまでの転調は転調の前と後のキーに共通する、あるコードやある音を媒介として転調していたのが、この無手渇転調では、まったくそういう媒介とするものが無く、あるところから何の前触れも無く、突然転調することが特徴である。上記のデジタルでの音楽製作の進化もあって、このような作りが非常にデジタルっぽいサウンドとして流行ってきた。

これを歴史的に見ると、実はこの脈絡の無い転調の要素が先に出てきた。最初は脈略の無い状態(つまりリズムがつながっていなかったり、一瞬音が途切れた状態があって、別の調へと転調する)で今までのなじみのある短1度上がったり、短3度や4度上がったり下がったりするような転調が出てきて、その後転調があまりなじみの無い様々な転調に展開していくという流れで進んできた。

このような流れが進んだのは90年代前半である。少しずつこのような要素が入って来て、進化して来た様子をいくつかの事例で見ていくことにする。

 

事例研究1 BE THERE B’z 松本孝弘作曲 1990年5月25日発売
  サンプリングを駆使したイントロで音を途切れさせ、そこで転調するという、音を媒介しない転調がいきなり出てくる。

Aメロ BメロはキーG#mでサビのところでキーがBmに短3度upする。サビから戻るところ突然戻るのが全く脈略が無い感じである。ただもともと短3度の転調なので、脈略なしと行ってもそれほど違和感は無い。

 

事例研究2 太陽のKomachi Angel B’z 松本孝弘作曲 1990年6月13日発売
  この曲最初サビ始まりで、サビのキーはEmとなっている。この最初のサビからAメロ入るところでコンガによるリズムだけのところが2小節あり、いきなりAメロに入るところでキーがAmになる。この間に全く音による脈略が無い。一方AメロのキーのAmからBメロのキーのDmに転調するところ(4度上がる)やBメロのキーDmからサビのキーのEmに長二度上がるところについては、音的につながっているような形で推移していて、あまり無手渇に変わっているとは言いがたい。

 

 

事例研究3 NAKED DESIRE access AXS作曲 1993年5月26日発売

AメロとBメロはE♭キー、サビがBキーと長3度の転調になっている。Bメロからサビに変わるところ、サビから間奏で元に戻るところいずれも全く脈絡なく、両方のキーに共通で中間に媒介されるような音もなく、リズムも一瞬とぎれ、全く唐突に無手渇に転調する。

 

accessの夢を見たいからもAメロとBメロがAキー、サビがC#キーと同様に長3度の転調となっている。

 

 

事例研究4 ロマンスの神様 広瀬香美 作曲 1993年12月1日発売

始まりのAメロのキーはG#、そこからBメロの最初のキーはB。ここへの変わり目は短3度アップで前に書いた元のキーのV#が次のキーのIVになることを利用しているので、唐突な感じはほとんどしない。これがBメロの途中からキーA、そしてサビのキーはF#と音でつながっているが、メロディックな感じではなく、非常に人為的につなげたように感じられる。これはコーダCメロからの間奏からサビも非常に音でつながっているものの脈略はほとんど感じされない。このようなアレンジではキーが多少異なってもつながってしまう。また最後のサビから後奏に入るところも唐突な転調になっている。

 

この無手渇転調のバリエーションの一つとして、無手渇に転調を繰り返したあと、いつのまにかもとより短二度低いキーになっていて、その後昔からあるように最後に短二度上がって最後のサビで盛り上がるものがある。こちらも例が少ないが、最近でも時々現れる。

 

事例研究1 コーラスライン 野口五郎 東海林修作曲 1980年5月1日発売
 この曲はライブ録音を使っており、サビの部分を観客と一緒に歌い、ライブで盛り上がっている様子を録った形になっている。ライブでの盛り上がっていく様子とその効果を得るために、じりじりと短二度ずつキーをあげていくような構成を取っている。まずキーGから始まり、次にG#キーに短二度上がる。そのまま短二度上がっていくかと思いきや、一度Fキーに長二度下がる。そして最後にもっともキーのサビを繰り返す過程で、駄目押しのように短二度キーをあげてF#キーになる。結局一番最後が一番高いキーになっていないのも面白い。

 

事例研究2 White Love SPEED 伊秩弘将作曲 1997年10月15日発売
 この曲は1990年代後半から特徴的に現れた無手渇に近い転調を多用している曲である。その転調の方法が無手渇なゆえ、そもそも元のキーに戻って来るのかどうなのかも、聞いていてわかりにくい。まず1番の中を見てもサビで転調する。ここで2番の開始時点では1番の最初と同じキーに戻っている。しかし、2番のサビが終わってから伴奏で無手渇な転調を何回か繰り返すと、CodaCメロに戻ってきた時にはいつのまにかもとのキーより短二度低いキーになっている。これだけ複雑に転調を繰り返すと、普通の人はこのことに全く気づかない。その後サビに戻るところで、短二度キーをあげる。この短二度キーをあげる方法は、まさに昔ながらの短二度キーをあげて盛り上がるような形になっている。ところが実は元にキーが戻っただけである。しかし普通に聞いていると如何にも最後で短二度上がったところだけがクローズアップされて、盛り上がるように感じるという手の込んだ方法である。恐らくこれは音域を目一杯使い切ってしまったので、このようなアレンジになったのであろう。

 

事例研究3 月のしずく RUI 松本良喜作曲 2003年1月15日発売
 この曲はちょっと違うが効果という点では似ているので取り上げてみた。2番が終わった伴奏から長二度下がり、その後CodaCメロはそのまま行き、その後サビに移るところで長二度上がって、実は元の調に戻っているのだが、キーが上がるような効果を作っている。

 

5、静かなCoda Cメロ

 最近の曲では珍しくもないが、2番が終わったあとの間奏や、その後のCoda Cメロの部分、あるいはサビの繰り返し部分を一度静かなアレンジにしている曲がある。たいていの場合はベースの音をミュートし、リズム系も最小あるいはリズム系だけ強調し、バッキングの白玉系の音を小さくする。音圧はこれにより小さくしてボーカルのみが目立つようにする。そして一度このように静かなアレンジの後にどーんとフル音圧でサビを持って来て盛り上げを余計に強調するという手法である。

 このようなアレンジの起源については、恐らく1970年代後半のコンサートから取り入れられて来たのではないかと考えられる。コンサートでは、このようなときに観客に歌わせたりするが、元々観客とマイクは遠いので、その音を拾うには必然的に演奏の音を抑えざるを得ない。そして最後にアーティスト自身がサビを歌い盛り上がって歌が終わるというような構成を取る事を、コンサートだけでなく通常のレコードのアレンジにも取り入れたことだと思われる。

 このため、このような曲は始めはコンサートを行うような当時のいわゆるシンガーソングライター系のアーティストの曲に多い。アイドルの曲などではむしろ少ない。これが一般化したのは1980年代からであり、1984年頃に前述のCodaCメロが一般化してきたところで、その間奏やCodaCメロ自体が静かなアレンジにするというところにつながっていく。

 

事例研究1 君の瞳は10000ボルト 堀内孝雄 堀内孝雄作曲 1978年8月5日発売
  コンサート活動をしていたアリスからの堀内孝雄のソロシングル曲。最後にサビの繰り返しの中で、最初が演奏もほとんどなく、一部のパーカッション系の音だけで構成されている。ただし歌は他の部分と同様力強く歌っている。コンサートでここの場面が拍手のリズムと観客の歌うのが想像できる。

 

事例研究2 哀愁でいと 田原俊彦 Andrew J. DiTaranto - Guy Hemric作曲 1980年6月21日発売
  こちらも最後にサビの繰り返しの中で、最初の1回目が演奏もほとんどなく、一部のリズムセクション系の音だけである。なお歌はささやくように歌っており、その後勃興してくる静かなCodaCメロにつながる雰囲気である。

 
6、サビ始まり

 サビ始まりの曲というといわゆるアイドル系が多いと思い勝ちだが、実際にはそういうことは無い。サビ始まりの曲の頻度をグラフにしてみると下図のようになる。
  これを見ると、1970年代前半から徐々に増えて行って、1980年台からは波はあるが20%から30%の曲がサビ始まりというような傾向にある。


 

 それでは、まずサビから始まる曲の起源について見てみる。
  1970年代初めのASA形式が全盛期であった。もともとASA形式は、AB形式から発達してきている。AB形式の場合は、インパクトがAの方が強かったり、Bの方が強かったり、ほとんど同じだったりいろいろなケースがあった。従ってASA形式になっても、場合によりAメロのインパクトがサビより強かったりするケースもあったりした。これをもっと極端に強くしていったところから、サビ始まりが始まったと考えられる。

このため初期のころは最初のサビがAメロなのかサビなのかがわかりにくい曲が多い。この1970年代初めのASA形式から派生したサビ始まりはSAS形式とかSBS形式と言ってもいいだろう。いくつかの例で見てみよう。

 

事例研究1 花嫁 はしだのりひことクライマックス 端田宣彦・坂庭省吾作曲 1971年1月10日発売
 この曲の最初はサビなのかAメロなのか判然としない。ただ、その後のBメロよりも最初のメロディーの方がはるかにインパクトがあるのでサビ始まりといえよう。

 

事例研究2 心の旅 チューリップ 財津和夫作曲 1973年4月20日発売
 1番の構成はサビAメロサビとなっている。
 明確にサビを最初に出すことを意識している。

 

事例研究3 情熱の嵐 西城秀樹 鈴木邦彦作曲 1973年5月25日発売
 1番の構成はサビAメロサビとなっている。
 出だしを聞くとインパクトはあるが、サビかどうかはわかりにくい。
 Aメロが出てくるところで、サビだったとわかるような感じである。

 

 

これらに対して、その後進化して出てきたABS形式の楽曲に対してのサビ始まりは、概念そのものが異なり、明確に最後の盛り上がって終わるサビを最初に意図的に持ってきたという意識がある。

 

事例研究4 青い果実 山口百恵 都倉俊一作曲 1973年9月1日発売
 1小節の非常に短いイントロのあと1番の構成はサビAメロBメロサビとなっている。最初のサビが始まった時にはサビと意識するのが難しいが、サビのあとに2小節の間奏があり、サビと意識できる。

 

 

事例研究5 禁じられた遊び 山口百恵 都倉俊一作曲 1973年11月21日発売
 1番の構成はサビAメロBメロサビとなっている。
 明確にサビを最初に出すことを意識している。

 

 

事例研究6 ロマンス 岩崎宏美 筒美京平作曲 1975年7月25日発売
 時代は2年ほどたって、サビを前に出すということが定着してきた頃。
 1番の構成はサビAメロBメロサビとなっている。
 これも明確にサビを最初に出すことを意識している。

 

 さらに上のグラフで少し下にへこんでいるところが1978年あたりと1990年あたりの2箇所ある。

この内1978年の方は、今でも時々あるが、サビで始まるのでなく、ちょっと異なったメロディーで始まる曲があった。1978年は全般的に曲の形式が複雑化した時期でもあり、この他にも単純なABS形式やAS形式以外の細かいフレーズをつなげた曲が多い。

 

事例研究7 かもめが翔んだ日 渡邉真知子 渡邉真知子作曲 1978年4月21日発売
 短いイントロに続いて、歌の出だしはその後全く出てこないメロディーで始まっている。この曲の最高音からいきなり始まるのでサビのようなメロディーだが、スローな出だしの後、スピード感あふれる間奏でスタートダッシュがかかって1番につながる。  

 

 

事例研究8 絶体絶命 山口百恵 宇崎竜童作曲 1978年8月21日発売
 これも短いイントロに続いて、いきなりハイテンションな歌い出しで、メロディーそのものはその後1回も出てこないものである。その後短い2小節の短い間奏を経て1番のAメロにつながる。

7、歪んだギターの爆発

 ここまで、曲の構成やコード、リズムについて中心に書いてきたが、サウンド面でも特筆すべき事項があるので、それをここで取り上げてみる。

 いまやエレキギターのサウンド無しのサウンド等考えられない。しかし1970年代までは、まだまだこうしたサウンドは市民権を得られなかったのが正直なところではないだろうか。1960年代後半のグループサウンズの時代にエレキギターのサウンドは入って来たが,まだ現在のサウンドとはほど遠い、クリーンギターが中心であった。それが歪んだギターの音とともにコンプレッサ/リミッタ付きの長い音が出せるようになって来た。もともとフォークロック系(当時はまだニューミュージックという言葉もなかった。)の歌にはところどころで使われていた。たとえば1973年の井上陽水の夢の中でのイントロ等に象徴される。これがフォークロック系から少しずつ広がっていく。1973年沢田研二の「危険な二人」は日本初のロック歌謡などと呼ばれた。このあとも1975年のバンバンの「いちご白書をもう一度」で歪んだギターのソロが出てくるが、なかなかヒット曲の中に当たり前に入ってくるようにはならなかった。それがどうしたことかある時に突然花開いたように一斉にこの歪んだギターサウンドを取り入れだしたのである。本当にある時期に突然にである。

 それは1977年の初夏。それまで本当に一部でしか使われていなかった歪んだギターの音がいきなりメジャーになって、さまざまなヒット曲の中に突然と現れてきたのである。まさに歪んだギターの爆発とも呼べる現象が起きたのである。

その直前の1977年春頃からダウンタウンブギウギバンドの「サクセス」、高田みづえの「硝子坂」、清水健太郎の「帰らない」で歪みっぽいギターが使われていたが、これが本当の意味でもきれいに聞こえる歪みの音になってきたのが1977年の初夏である。

 

事例研究1 沈黙 野口五郎 筒美京平作曲 1977年4月25日発売
 いきなりツインリードの歪んだギターで強いインパクトのイントロとなっている。途中のAメロの中で歌のメロディーの間にはさまる伴奏も同様のツインリードを多用しこの歪んだギターの爆発の中心的な作品の一つとなっている。

 

事例研究2 セクシーロックンローラー 西城秀樹 三木たかし作曲 1977年6月5日発売
 名前の通り、ロックを前面に出したアレンジ(萩田光雄編曲)である。これもツインリードの歪んだギターを使っており、コンプレッサーを使って白玉の長い音符もきれいに聞こえるようにしている。

 

 

事例研究3 熱帯魚 岩崎宏美 筒美京平作曲 1977年7月5日発売
 伴奏のリードの中心が歪んだギターを使っている。特に一番曲の最後の後奏が歪んだギターで締められているのが特徴的.である。

 

 

事例研究4 イミテーションゴールド 山口百恵 宇崎竜童作曲 1977年7月1日発売
 前作の夢先案内人ではまだクリーンギターっぽい音が使われていたが、この作品のAメロのの伴奏で切れるようなするどい歪んだギターの音が入っており、曲を引き締めている。

 

1977年秋になると、もはや現在のようにあたりまえになってしまった。奇しくも同じ1977年9月5日発売の3曲について書いてみる。

 

 

事例研究1 憎みきれないろくでなし 沢田研二 大野克夫作曲 1977年9月5日発売
 イントロから重いエレキギターのサウンドが前面に出されたアレンジ。イントロから続くAメロの間続くバッキングも重みを感じさせる。1番と2番の間の間奏のギターソロも重い音。

 

 

事例研究2 旅愁〜斑鳩にて〜 布施明 川口真作曲 1977年9月5日発売
 やはりイントロから入るソロの歪んだエレキギター。もうこの頃になると、哀愁をただようこのようなメロディーをエレキギターで表現ができるようになってきた。

 

 

事例研究3 もう戻れない 桜田淳子 筒美京平作曲 1977年9月5日発売
 こちらはちょっと変わっていて、エレキギターの弦を擦る音をフィーチャーして使っている。音も歪み系の重い音を使っている。

 

 

このあと2番目の変革は1979年頃である。もうこの頃にはあたりまえとなっていた歪んだギターのサウンドだが、それにさらにさまざまな表現が取り入れられてきた。

事例研究1 夏に抱かれて 岩崎宏美 馬飼野康二作曲 1979年5月8日発売
 2番の後のギターソロが有名で、まさにその頃はやり出していたフュージョン的なサウンドになっている。こういった単に重いだけでなく、しゃれた感じのギターソロもこの頃から登場するようになってきた。

事例研究2 愛の嵐 山口百恵 宇崎竜童作曲 1979年6月1日発売
 イントロの最初からからいきなり重いエレキギターのパワーコード全開という曲である。アレンジの要所要所に重いギターサウンドが用いられており、こう行った音作りがこのころから一般化してきた。

 

事例研究3 ミス・ファイン 石川ひとみ 伊藤薫作曲 1979年12月21日発売
 この曲は大ヒット曲という訳ではないが、エレキギターのアレンジという意味で重要なので取り上げて見る。注目すべきは、この曲の一番最後にフェードアウトするまで使われている、ギターソロの部分である。ここはまさに気持ちの良いエレキギターのギターソロの先駆けである。このような気持ちの良い、少し歪んだエレキギターでのソロは、日本人に非常に受けが良く、その後も多用されていく。松田聖子の曲での伴奏や、その後1990年代のZARDを初めとするビーイングのサウンドの気持ちの良いエレキギターソロにつながっていく。

 

 JPOPのサウンドについてはこの他にも様々な流行があり、サウンドを聞くだけでこの曲はどんな時代のものかがわかってしまうものも多かったが、1990年代半ば以来非常に画一化されてきており、時代の区別がつきにくくなっている。これもJPOPが成熟してきた証といえよう。

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